INTERVIEW VOL.03

向 千鶴

編集者
Sep 20th, 2019
接客を通して服がきれいになる新時代。

ファッションの可能性を広げる
ワードローブトリートメントの
サービス。

お客さまからお預かりした服、一着ずつと向き合い、その特性に合わせたメンテナンスを行う「ワードローブ トリートメント(WARDROBE TREATMENT)」。
一般的なクリーニングサービスとは一線を画し、“トリートメント”としてメンテナンスを行うことで、まるで新品を手にしたときのような感動を蘇らせます。
第三回となる今回は、最新のファッションやビューティーに関する情報を発信する
『WWD JAPAN』の編集長・向 千鶴さんのお洋服をお預かりしました。
「好奇心を持って、汚れを研究しながら立ち向かっている」とはご本人の言葉。
「ワードローブ トリートメント」のサービスを通じて向さんが得たのは一体どんなものだったのでしょうか?

Text: Yuichiro Tsuji / Photo: Hiroyo Kai / Edit: Masaya Umiyama

デザインの特徴を
しっかりと活かした仕上がり。

向さんは普段、どんな方法でお洋服のメンテナンスをされていますか?

:仕事柄、海外出張へよく行くので、毎日小まめに何かをするというよりも、着た洋服をまとめてクリーニング屋さんに持って行くことが多いです。出張から帰ると服も私自身もぐったりしているので…(笑)、あとはプロに任せよう、と。

なるほど。

:とはいえ、すべての服がクリーニングできれいになるとは思ってない部分もあって。

というのは?

:買い物をするときに、後先考えずに買ってしまうんですよね(笑)。展示会に招待いただいて、いいなと思ったものをインスピレーションでパッと選んでしまうんです。とくに東京のブランドは繊細なデザインが特徴だったりもするので、クリーニング屋さんに持っていっても対応してくれないだろうなぁ、なんて思いつつも、ついオーダーしてしまって。だから今回「ワードローブ トリートメント」のサービスを受けて、そんなお洋服でもケアしてくれるんだ! と驚きました。

このワンピースなんかはその典型ですよね。
繊細な生地が複数使われていて、デザインにもさまざまなテクニックが見られます。

:自分の頭のなかに「クリーニングに出せない」という前提があったので、正直いうとこの服はあまり着ていなかったんです。着るときも汚さないように気にしながら外へ出ていました。そうしてても、やっぱり袖のあたりとか汚れてしまっていて。でも、仕上がりを見てびっくりしました。

スソのあたりに汚れがあったというワンピース。部分的に汚れを取ったあと短い時間でサッとすすぐことで、生地の痛みを最低限に抑えている。全体的に強い洗いをかけるとサテンやベルベットが傷んでしまうため、必要な場合のみお客さまに了承を得た上で行う。

サテンやベルベットのツヤも失われていないですね。

:そうなんです。汚れがきれいになっているのはもちろんなんですが、デザインの特徴をしっかりと活かした仕上がりになっているのがうれしかったですね。

他にもウールのスカートやコート、そしてレザーのバッグも今回出されていましたよね。

:じつはこのスカートも諦めていたアイテムなんです。目立つシミがあって、一度近所のクリーニング屋さんに出したんですけど、「これ以上のシミ抜きはできません」っていうお決まりのタグがついて戻ってきて、やっぱりそうなんだ…と。これがアヴァンギャルドなデザインだったら誤魔化して着ることが許されるのかもしれないけど、これは優美で品のあるスカートなので、シミひとつで台無しになってしまうじゃないですか。

たしかに、そうかもしれません。

:でも、サービスを受けて戻ってきたこのスカートを見ると、もはやシミがどこにあったのか分からないですよね。お店の方にお話を伺ったら、生地を痛めないように弱いシミ抜き剤から順に試していっているようで、そういった対応にも感動を覚えました。

大きな汚れは見られなかったが、預けた当時は生地の風合いがパサついていたというコート。ウールやカシミア専用の加工剤で、汚れを落としながら生地が柔らかくなるように洗いをかけ、その後に羊の毛から抽出した「ラノリン」という油で生地に栄養を与え、購入当時に近い柔らかさとハリのある風合いを蘇らせている。

一方、こちらのコートは、汚れこそそこまで目立っていませんでしたが、生地の風合いが硬くなっていたそうですね。

:そうなんです。生地も縫製もイタリア製のコートで、デザインこそシンプルですけど、だからこそ風合いが命というか。羽織ると生地にふわっと気持ちよく包まれるような感覚になって、そこが気に入っていたんです。定期的にクリーニングにも出してはいたんですけど、購入から時間が経つほどその風合いは損なわれてしまって。

繊維のなかに埃や汚れが溜まっていくのはもちろんなんですが、雨に濡れたまま放置するだけでも風合いはどんどん損なわれてしまうそうです。

:そのはずなのに、いまは柔らかさとハリ・コシが戻っているんです。まるで買った当時の状態に戻ったみたい。単に汚れを落とすだけではなくて、そのあとに生地に栄養を与えて風合いを蘇らせてくれたんです。それが本当にうれしくて。

バッグはいかがでしたか?

:これは買った時期を明確に覚えていて、2011 年なんです。それで購入して間もないうちに、バッグのなかでペンのインクが漏れてしまって…。それをもうずっと長いあいだ放置していたんです。

時間が経てばたつほど汚れは落としにくくなるといいますよね。

:そうなんです。でも、これも仕上がりを見るとどこにシミがあったかわからないくらい。レザーも色が薄くなってしまった箇所があるんですが、それもしっかりと補色されていて。こういうバッグはどこに持っていけばいいかわからなかったんですけど、お洋服と一緒に預けられるのはうれしいですよね。

内側に油性のインクが染み込んでいたというバッグには、油性専用のシミ抜き剤を使って汚れを吸い取るようにして除去。しかし、生地に大きな負担のかかる方法のため、もとの色が抜けないように注意をしている。その後、色が薄くなった部分を補色。同時にレザーの部分もシボの風合いを損なわないように、黒く色を補っている。

ファッションの可能性が
広がる楽しさがある。

服やバッグに関して、男性は経年変化が味になるという言い方をしますが、女性には通用しませんよね。

:それはデザインによるのかもしれません。でも、美しい服の生地が汚れていたり、ヨレヨレになった服を着ていても、やっぱりいい印象は生まれないと思います。年齢を重ねると、社会的な立場というものも気になりますからね。シミのついたスカートを穿いて「ファッション誌の編集長です」って自己紹介しても、なんの説得力もないですから。

ー方で、新品のような輝きを放つ服を着るのは、女性にとってどんな感情を起こしますか?

:私の場合、生地を触ったときの感触など、その服が持つ風合いが好きなんです。それが蘇ることで、購入した当時の気持ちも同時に思い出しますよね。例えばこのスカートは、イベントで登壇するときのために買ったものなんです。美しくて、気持ちを引き締めてくれる服を探しているときに出会ったもので、その当時のモチベーションのようなものが、いまの私の気持ちと同期する。そんな感覚がありますね。

一般的なクリーニング店と「ワードローブ トリートメント」のサービスの違いはどんなところにあると思いますか?

:服が持つ個性をしっかりと捉えて、それに合わせて施術をしているところです。生地の特徴はもちろんなんですけど、汚れに対して、どうしてそれがついてしまったのか? どうしていまこんな風合いになっているのか? それを考えながら、ひとつ一つ丁寧に対処している。まるでオーダーメイドの服をつくるような感覚ですよね。接客なんです。

なるほど。

:あと、スタッフの方には好奇心があって、自分たちで研究しながら汚れに立ち向かっている印象があります。なんというか、どんな汚れでもかかってこい! というような熱のようなものが感じられるんです。それも他のお店にはないポイントだと思いますね。だからお客である私たちも、どうしてそんな汚れになってしまったのか、その経緯のようなものを伝えることで、お店の人たちもヒントが得られやすいんじゃないかと思います。

最後に、ひとつの服を長く愛することで、どのようなメリットが得られると思うか。向さんの考えを教えてください

:女性って新しい服が好きなんですよね。常に最先端を求めているというか。でも、こうして服を長く愛することで、自分の歩んで着た道のりを再確認することができますよね。いまの時代、過去を振り返りながら、いいものはいいって認められる価値観も必要とされています。そういう意味でも、新しいもの同士の組み合わせじゃなくて、過去と現在の服をミックスしながらファッションを楽しんだりすることもできますし。買った当時は気づかなかった魅力を発見したりとか、そういったことも可能になるのではないかと思います。単純にファッションの可能性が広がる楽しさがありますよね。

シミ抜きで一番こわいのは、漂白による色抜け。それが起きないように弱いシミ抜き剤から生地にあてていき、段階的にシミ抜きを行なっている。どうしても色抜けが避けられない場合は、仕上げに補色を行う。このスカートは全体的に色がくすんでいたため、洗いをかけて汚れを落とし、クリアな色を取り戻している。

PROFILE

向 千鶴 (CHIZURU MUKOU)
WWD ジャパン 編集長
1970 年生まれ。横浜出身。東京女子大学卒業後、エドウイン営業部、日本繊維新聞社編集局などを経て 2000 年エム・メディアグループ(現 INFAS パブリケーションズ)入社。「ファッションニュース」編集長、「WWD ジャパン」ファッションディレクターなどを経て、2015 年 4 月 1 日より現職。

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